何時届くかと何度も郵便受けをのぞいてしまいました(^^;
津軽三味線一筋の雪(せつ)は大会で田沼聡一に負け、その悔しさを抱いたまま民謡酒場「竹の華」で働くために学校まで辞めてしまいました。退学届を出して2ヶ月、どっぷり「竹の華」につかった雪は冒頭で兄ちゃんへはがきを出します。ま、これがこの兄弟のつながりっちゃつながりなんですね。そこで学校辞めて店で働くことを淡々と告げる弟と、またかと思う兄。男兄弟って面白いもんですねぇ。
さてさて、8巻までは天才のそばで育った天才児が学校の部活というステージで人と関わりながら自分の三味線を改めて見直す工程だったのかもしれません。何せ三味線だけは自信があったけれど、それ以外は正直ダメ人間。津軽三味線の「神」みたいなじいちゃんのそばでひたすら心のままに三味線を弾いてきた雪にとっては、大会に出る事も部活でみんなと一緒に練習することも何もかもが新鮮で不思議な感覚だったことでしょう。それでも大会で負けるまでは絶対的に技能には自信があったのに。「好き」「嫌い」というものが技能よりも勝る世界があることに気づかされ愕然となります。
9巻はそんな雪くんの心の葛藤もさることながら、「竹の華」でのお客様とのやり取りも描かれていて、その中でやはり技術だけではお客様の要望に応えられないことにも気づきます。そしてそれこそが、「好きか嫌いか」。彼には最も遠い世界の話です。
そして、高校の先輩で噺家の息子でもある「雷先輩」のエピソード。
これがねぇ、すごくいいんですよ。この落語の会で披露される創作落語はひょっとして羅川さんが作られたんでしょうか。ブレーメンの音楽隊をベースにしたということですが、噺家の話術と雷先輩の三味線の効果が相まってわくわくどきどきの落語に仕上がってます。実際にこんな噺をライブで聴いてみたいもんですなぁ。
お父さんである噺家の米福さんが雷先輩に話した「幸が不幸で不幸が幸」だという問答のような会話が沁みました。そして創作落語のオチの一言も効いてます。
ぜひここだけでも読んでみてください。
もちろんいつものように三味線を弾く場面での臨場感のある描写も満載です。
そういえば昔駅前で見かけた三味線弾いてた少年もうまかったなぁ、どうしてるかなぁ。
450円なり
by 宇川晶